と畜場や食鳥処理場はごく一部を除いて、ほとんどがあまり人目に触れることのない郊外に建っています。また、日本全体でみれば消費地である大都市圏ではなく、家畜生産が盛んな地方都市またはその周辺市町に数多く設置されています。
食肉衛生検査所は、と畜場や食鳥処理場内で解体される家畜や家禽を検査する機関。なので大半の食肉衛生検査所は、と畜場に隣接して整備されます。
という訳で、日本全国、大半の食肉衛生検査所は、人里を離れた郊外にあるんです。そして最寄りの市街地の規模だって、小さな市や町がせいぜいです。
「いただきまーす!」の主人公、田中一平の勤務先も田んぼの一本道を進んだずっと奥。
住むことになった街は、ごくありふれた小さな街。
都会で生まれ育った一平は、「本当になんにもないところに来ちまった」と思ったに違いありません。
と畜検査をしているたくさんの公務員獣医さんが、日本のいろんな場所で毎日、と畜場に向かって車を走らせています。
燃えるような夕焼け。突き抜けるような青空。海かと錯覚してしまうぐらい広い田んぼや牧草地。かなたに雄々しくそびえ立つ秀峰。
たとえ通勤途中では見えなかったとしても、暮らしの中で四季折々、とある瞬間に、圧倒的スケールの鮮烈な風景を目にしているはずです。
そして暮らしている小さな街。
さてして、そこにはホントに「なんにもない」のでしょうか?
実はいろんなものがあって、いろんな人がいる場所なのかもしれません。
実はとても素敵なものを見つけることができたり、魅力的な人に出会える場所なのかもしれません。
けれど運悪く何も見つけられず、結局去ることになってしまう場所なのかもしれない…。
それは実際にそこに行ってみて、住んでみなきゃあ分かんないのです。
私は小さな田舎街で生まれ育ち、自然豊かな土地で獣医学生生活を送った後、首都圏や地方都市生活を経て再び生まれた土地に舞い戻って暮らし始め、今もここにいます。
そんな私が生まれ育った小さな街で再び暮らし始めた当初、つくづく思ったこと。それは、
「ここってこんな所だったんだ。俺は何も見えてなかった。」
ということです。
自分の地元の魅力にもっと早く気付いていれば、首都圏や地方都市に行くこともなかったかもしれない。いや逆に、他所を見てきたからこそ、生まれ育った街のいい部分を見つけることができるようになったのかもしれません。
そしてそんな魅力に溢れた街が、私が生まれ育った街だけ、なんてことは、絶対あるはずがないのです。
声を大にして言います。
「日本という国には、小さくたって素敵な街が、たっくさんあるんだぞお!」
田舎の食検に入ったばかりの一平は、妙な上司や同僚に振り回されつつ、小さな街を少しずつ歩き始めているようです。
一平が今後何を見つけていくのか。
どうか見守ってあげて下さいね。
(「出かけよう、外へ。」に続きます。)