(「再任用職員には最初に引導を渡しておく」の続きです)
幼い子供さんを抱えて仕事をするのはとても大変。
子育てを終えた職員にとってはかつて自分が経験した道。
子供さんのいない職員にとっては、これから自分が直面するかもしれない状況でもあり、たとえそうならなかったとしても、今後自分の仕事を強力に支えてくれるパートナーとなるかもしれない存在。
お互い様なんだからと、一致団結して臨まなくてはなりません。
各自治体では職員に対し、さまざまな子育て支援策を打ち出しています。
本記事では子育て支援と職場の仕事マネジメントのバランスをいかにとるかがテーマなので、特に時間外勤務や休日出勤を中心に書いていきます。
各自治体の職員への子育て支援では、生まれた子が小学校に入学するまでは時間外や休日出勤をさせるな、とする自治体が多いようです。なので育休明けから数年程度、時間外勤務や休日出勤を免除することになります。
本記事ではこの期間、時間外や休日出勤を免除してもらっている職員のことを「子育て職員」と呼ぶことにします。
また、所属する自治体が時間外や休日出勤を免除している期間を「支援期間」と呼ぶことにします。
数年に及ぶ支援期間。本人としても組織としても、決して短い時間ではありません。
各職場の管理職は支援期間中、残された職員の負担をなるべく小さくすると同時に、子育て職員に上手く職場復帰してもらえるよう仕掛けておかなければなりません。
1 残された職員の負担軽減策
①急な休みの時のバックアップ要員
子供は病気やケガをするのが仕事。そのたびに子育て職員は急に休みをとらないといけなくなります。
だからと言って、軽い仕事や誰でも代わりが勤まる仕事ばかりを預けてはいけません。
責任のある重い仕事をきちんと背負ってもらうのです。
子育て職員に急な休みが入った時のために、子育て職員を補佐するサブリーダーを必ず付けます。子育て職員に急な休みが入った場合、サブリーダーが第一義的にピンチヒッターとなるのですが、サブリーダーが代われない場合は、各公所の管理職やその次のポストの者が率先してバックアップ要員を担うのです。要は食肉衛生検査所なら「所長や次長」、保健所なら「課長や課長補佐」ですね。
私の現役時代は、「所長は現場に出させるな!」とよく言われたものです。
まあ色んなニュアンスを含んでそう言ってたのだと思いますが、どの職場もギリギリのスタッフで回している昨今、所長だろうがイワシの頭だろうが、使えるものは使うのです。
所長と一緒に組む係の担当者も、気い使っちゃうし変な所を見られても困るから組むのやだな、なあんて言わないで、人手が足りないんだからお前も仕事しろ、と、どんどんやってもらおうとする気構えが大事です。
組織で仕事してるんですよ。
全部自分達で被ろうとするから追い込まれるのです。
②時間外対応要員の確保
子育て職員は毎日、夕方には帰宅しないといけません。しかし様々な有事案件が日常的に突発する保健所では、時間外勤務が避けられません。
サブリーダーがフォローしきれない時間外勤務は、管理職がバックアップします。
なので保健所の管理職の権限を行使し、子育てで夕方帰らないといけない職員の数を、管理職がカバーしきれる人数まであらかじめ減らしておくのです。
手段は人事異動。そして、よく使われるやり口は2つです。
ひとつ目は、子育ての時期、食肉衛生検査所のような時間外勤務の発生しにくい公所に異動させる。二つ目は、生活支援を期待できる近親者の生活圏に異動させる。このふたつは、すでにいろんな職場で支援策としてやられていますね。
いずれにせよ保健所の管理職は、自分がバックアップしきれない人数の子育て職員を抱え込んではいけないのです。
2 支援期間の過ごし方を共有
ここからがこの記事の本題です。
子育て職員は保健所や検査所で何年かの経験を積んでくれた、貴重な即戦力。育児しながら仕事を続けたいと考えてくれる職員の復帰は大歓迎です。
しかし、子育て支援を受けている人の中には、子育てを理由にしさえすれば、そのままずっと組織から守ってもらえるんだ、と勘違いする人が必ず出てきます。
肝心なのは、子育て支援を開始する一番最初の時期、つまり女性職員なら産前休暇の前、男性職員なら育児休業の前に、育児休業が明けてからの支援期間の過ごし方を、本人によく話しておくことです。
「支援期間の過ごし方」
①生活スタイルの設計
自治体で決めている支援期間をきちんと把握し、それが終わるまでの間に、支援期間の満了後にどうやって時間外や休日出勤を分担しつつ子供を育て、暮らしていくのかについて、家族でよく話し合っておくこと。
②支援期間中の仕事分担
子育て職員はこの先20数年、自治体の重い仕事も背負っていく立場にある。重要な仕事もどんどん覚えなければいけないことを自覚すること。
なので、支援期間中は自分の担当する仕事を一時的に代行可能なサブリーダーを職場から必ず付けてもらって急な休みにも対応できる体制をとり、重要な仕事も担っていくこと。
③支援期間満了後の職場での立場
支援期間が満了したら、今度は自分が育児支援を願う若い職員を支える番であることを自覚し、彼らの仕事を分担し、良き理解者となるよう努めること。
こうした過ごし方を事前にきっちり説明せず、居合わせた管理職が組織としての一貫性を持たせないまま、思い思いに目の前の子育て職員に対応してしまう。
組織的な対応が準備されていないから、物分かりのいい上司と思われたいという心理が優先し、「どんどん休んで」とか「できる仕事だけしてもらえればいいから」と耳障りのいい言葉に終始してしまう。
そんな目先の対応で済ませてしまうから、復帰しても新人さん程度の仕事しかできない子育て職員がたくさん出来上がってしまうのです。
子育て職員の複数年に及ぶステップアップの道筋を設計して各職場の管理職に行わせる。これは管理職を統括する立場にある県庁主幹課の課長の仕事。
そしてきちんと引き継ぎを行い、主幹課長の設計した道筋どおりの一貫性のある対応で子育て職員のステップアップを図る。これが各職場の管理職、つまり食肉衛生検査所の所長、保健所の課長の仕事です。
だから各職場の人事権限のある管理職は、必ず職場マネジメント能力のある人物が担わなくてはならないのです。
能力のない人物にやらせるぐらいだったら、そのポストを獣医さんから分取って、スパスパ捌ける事務方に明け渡した方がずっとずっとましだ、と私は思ってます。