いただきまーす! season2 第11話

小説

<前へ> <次へ>

一平と別れ、検査所二階の事務室に戻った山本。
全員出払っていて、事務室は山本、ただ一人だ。

自席に座って受話器を取り、県庁生活衛生課の短縮ボタンをプッシュする。
「あ、郷浜食検、山本です。相澤さんか課長、居りますか?」

しばしの間の後、電話口にややしゃがれた声の男性が出た。
「桐生です。相澤さんは出張でね。」
「あ、課長!申し訳ありませんが緊急の用件でして…。」
「そっちの牛の件か?」
「え!もうお耳に入っていたんですか?」
「入ってたも何も、俺の隣にそちらの所長さんがいてさ、今、二人で君からのメール見てたとこだよ。水戸さんに替わるかい?」

山本は思わず背もたれに背中を預ける。
「ああ、そうだったんですか。なら話が早いです。」
「今、対応中です。」

「簡易検査の結果出たら、まずは連絡くれ。それでいい。」
「その時までにあらん限りの情報、俺にまっすぐ送ってくれ。」
「情報は事実だけ、箇条書きででいい。」
「君からの情報だけをもとに、こっちの部長と畜産課の課長には俺がレクチャーしとく。だからそっちの公社の連中以外には、まだオフレコだ。」

「所轄の家保へは?」
「こちらのルートから話を下ろすから、君は動かなくていい。」
「情報の交通整理は、任せろ。」

「公社の社長、もう誰かに話したかもしれませんが…。」

電話の向こうで桐生が微かに笑う。
「もう俺にカマかけてきやがった奴がいやがったよ。」
「郷浜でなんかありましたかねえ、ってさ。」

思わず山本が低く唸る。
「もう、ですか…。」

「まったく食えねえ奴等だよなあ。」
桐生がクククっと笑う。
「俺から話すことは今のところ何もありません、何かご協力をお願いする際は、よろしくお願いしますって、まずは軽くいなしておいたさ。」

「山本さん。」
「はい?」

「山本さんは、現場に集中してくれ。」
「外野はこちらの持ち分だからな。他の誰かが嗅ぎ付けて来やがったら、全部県庁で説明しますって、こっちに振ってもらって構わん。」
「ありがとうございます。」

「いやいや、お礼を言うのはこっちの方だ。現場を背負わせっ放しで、大したこともできなくてな。」
「結果がどっちに転ぼうが、きちんと話を落としてやる。」

「君らは落ち度なくマニュアル通りに進めてもらえれば、それでいい。」
「じゃあ、一旦、切るぞ。」
ガチャリと電話が切れた。

ふう…。

充血した眼で暫し天井を見上げる。

ようやく机の上のノートパソコンに目を落とした山本は、猛然とキーボードを叩き始めた。

と、机の電話が鳴る。
内線通話だ。
「はい、山本。」
「木村です。丹羽課長が事務室のテレビ脇にあるモニター、ONにしてくださいって言ってます。」
「了解。」

アスコリーと直接鏡検、出たか。

誰もいない事務室。
その入口の上に掛けられた、丸い壁掛け時計を見る。

十二時三十七分、と…。

手元のメモ用紙にがしがしと書き殴ると、山本はゆっくりと立ち上がった。

<前へ> <次へ>

タイトルとURLをコピーしました