保菌調査は食肉衛生検査所のお家芸!

いい仕事

【中古】獣医さん走る / 吉川泰弘

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動物からヒトに感染しているかもしれないと言われている病気が新たに問題になってきた。
けど、ほんとの所はどうなんだろう…。そんな時は、ヒトの病気の専門家であるお医者さんよりむしろ、動物の病気の専門家である獣医さんの出番。

でもさ例えば、豚がその病原体を持ってるかどうかを調べるとして、色んな地域のたっくさんの農場を駆けずり回って、それこそたっくさんの豚のサンプルを集めなきゃいけないでしょ?
そんなのすんごい大変だあ…。

いえいえ、そんなことわざわざしなくても大丈夫。

と畜場には毎日、その施設のある県内はもちろん、ずっと遠くの地域からも豚が集められています。
そしてその範囲も数も、毎日、とーんでもない数。
ヒトで問題になってるなんとかっていう病原体について、例えば豚が持ってたりするのかな?という疑問が出たら、すぐに、と畜場でどっさりサンプルを集めて調べることができちゃうんです。

そういう立ち位置にいる獣医さんが、と畜場や食鳥処理場で検査をしている食肉衛生検査所の獣医さん達です。
ずうっと以前から、サルモネラや腸管出血性大腸菌、カンピロバクターなどなど、様々なヒトに問題を起こす病原体の保菌状況を調べ、積み上げ続けています。そしてその情報を元に、安心して食べられる食肉を提供できる体制づくりをしているのです。

最近の一例をご紹介します。

2017年前後、 日本でEscherichia albetiiという大腸菌の一種がヒトの食中毒で問題視されたのですが、豚がその菌を持ってるのかどうかは、まだ分かっていませんでした。
そんなら調べてみようぜ!と、立ち上がったのが、山形県、沖縄県、名古屋市の食肉衛生検査所の獣医さん達です。

彼らが調べてくれたおかげで、国内で飼育され、と畜場に搬入されている豚が、なにがしかの割合でその菌を持っていることが確認できました。

でもさあ、いた、ってことが分かっただけじゃん。
それがどうしたってえの?って言う、そこのあなた。

そう。
現時点では、「豚にいた」ということが判明した程度です。

けれど今後、「どの程度の割合でいるぞ」と統計学的に言えるレベルまで調査が進めば、豚からヒトへの健康被害って、まあ心配無さそうだな、とか、こうすれば無視できるレベルまで抑え込むことができるぞ!と、確率論的に議論を進めることができるようになるのです。

ヒトに影響するどんな病原体に対する対策も、「いた」という最初の一歩、ここからすべてが始まったし、これがなければ何も始まりません。

まず、その一歩を踏み出した。

本当に地味な作業ではありますが、その一歩の大きさに、是非、気付いてもらいたいものです。

先にご紹介した3つの食肉衛生検査所の調査報告は、和文論文として公表されています。
遺伝子学的にも詳細に検討しており、ヒトで見つかった病原体との関連性を示唆する、科学的知見の多い内容になっています。
医学領域の研究者と対等に議論できる、とても専門性の高い仕事と言えますね。

獣医大学の学生さんで食肉衛生検査所の仕事ってどんなんだろ?って思ってる方は是非、文献をご覧になってみてください。

そして食肉衛生検査所なんか、ただ一日中、牛とか豚とか解体してるだけだろ、って思ってる獣医学生さんへ。

あなたに彼らの議論が読み解けますか?
彼らの視線の先にあるものが見えますか?

私からの挑戦状です。

文献はこちらからどうぞ。

山形県

沖縄県

名古屋市

「動物介在療法による不登校児童生徒への支援」に続きます。)



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