獣医さんの本

ぼんやりと獣医師になろうかなと思ったけど、具体的な仕事のイメージがない。
獣医師になる、と決めたものの、何をしていけばいいのか分からなくなってきた。
獣医師として今、仕事をしているけど、自分はこのままでいいのかな?
ふとそう思った時、ありませんか?
そんな時は、いろんな獣医師さんの歩んできた道のりをちょっとだけ探検。
何かが見えてくるかも。
このページでは色んな分野で活躍している獣医さんの本や、獣医師を主人公とした小説を取り上げていきます。
私が全部読んでいるわけではないので、いわゆる著作のレビューではありません。
そんな獣医さんがいるのか、あるいは、そんな獣医の生き方も素敵だな、と、みなさんが気付くきっかけ作りになればと思っています。
地方公務員獣医師を検討している方はこちらも参考にしてくださいね。

「しっぽの声/夏緑 ちくやまきよし 杉本彩」

ペットショップやブリーダーの負の部分、多頭飼育崩壊に向き合う獣医師を描くこの作品。この分野に関心のある人や公衆衛生獣医さんなら一度は手に取ったことがあるのではないでしょうか。
事案の重さや状況の違いこそあれ、保健所で動物行政を担当している公衆衛生獣医師なら、ここに書かれたエピソードのどれかに近い体験をしているはずです。
福祉行政、警察との連携なしには事態が前進しない案件は数知れず。
また、この作品の主人公が真逆の信念を持つ2人の獣医師であることから分かるように、ひとつの哲学だけでは目の前の事案に対応しきれないことが、動物行政の難しさと言えます。
自分はどういう哲学を持って、このテーマに向き合うのか。
これは公衆衛生獣医師だけでなく、すべての分野の獣医さんの課題です。
自分の哲学を見つめ直す。
そういう意味で、内容の賛否はともかく、この作品はぜひ一読していただければと思います。
また、志のある方々が既に着手し始めている「シェルターメディスン」という分野がありますね。
この分野の普及に尽力している田中亜紀先生が言うように、動物の保護収容施設に最も必要なのは、個々の実情に合わせた運営方針の確立です。
そしてその運営方針を途絶えさせることなく維持管理できる人材を職員の中から発掘して育て、その職員が誇りを持って働き続けていけるような職場環境を整備する。
これが動物保護収容施設を主催する自治体の大きな責任だと思います。
いずれにせよ、重くて敬遠されがちなこのテーマに果敢に挑戦し、一般のみなさんの目にも触れやすいマンガという形にしていただいた小学館の編集スタッフの方々のジャーナリズムと勇気には大感謝です。
ありがとうございます!
ビックコミックオリジナル(小学館)で連載中です。

「ドッグメン 第三軍犬小隊 (柏艪舎文芸シリーズ)/ウィリアム・W.パトニー」

著者は第二次世界大戦時の軍用犬の獣医。ガダルカナル、グアム島での軍犬任務を描いたノンフィクションです。
どんなエピソードがあるのか。
聞きたいような、聞きたくないような…。
しかし軍用犬の獣医さんのお話は、まあ聞けることはありませんよね。
その意味で、一読の価値、あるかもです。

「アメリカ動物診療記 プライマリー医療と動物倫理/西山ゆう子」

アメリカで獣医師として開業している西山さん。
各種講演会でお目にかかった方もいらしゃるのではないでしょうか。
西山さんがアメリカに行ったきっかけや、アメリカの獣医師免許を取得し、開業に至るまでの道のりは、アメリカでの獣医師を目指そうとしている獣医さんや獣医学生さんの参考になると思います。
現在はフリー獣医師として幅広く活躍されています。
こちらに開業した頃のインタビュー記事がありました。
西山さんのブログはこちら

「もういちど宙へ 沖縄美ら海水族館人工尾びれをつけたイルカフジの物語 /岩貞るみこ」

沖縄、美ら海水族館のイルカ、フジ。
1回の手術では尾びれの壊死が止まらず、沖縄県立北部病院の医師の協力の下、2回目の手術でようやく壊死を食い止めます。しかし尾びれの4分の3を切除する結果に。
「ただ浮かんでいるだけのイルカ」となってしまったフジ。
担当する同館の獣医師植田啓一さんやスタッフが何かできないかと奔走し、ついにあのタイヤメーカー、ブリヂストンと「イルカ人口尾びれプロジェクト」を立ち上げます。
本書はその顛末を岩貞るみこさんが綴ったノンフィクション。
水族館スタッフの情熱が、日本が世界に誇るメーカーの技術屋さんの心の琴線に響いて実現した世界初のプロジェクト。水族館のパネルにプロジェクトコンセプトが書いてあります。
「かわいそうだから、を先行させず、今後の鯨類飼育につながる科学的検証と治療のためのデータ蓄積を目指して」
思わず拍手!
だからこそ、これだけの技術屋がひとつに集結できたのだ、と思います。
苦闘の末に尾びれは見事に完成。
多数のメディアに取り上げられました。
植田さんもひっぱりだこだったようです、
植田さんが書いた一般向け著述はほとんどありません。けれど科学論文は精力的に多数出されています
イルカの全身麻酔や水中でのマンタの超音波妊娠診断にも成功
今も獣医の本業を突っ走る、根っからの獣医さんです。
イルカ人工尾びれプロジェクトに関わったブリヂストンの技術者さん達のコメントも、とても素敵でした。
(2019/12月、ブリヂストンHPでの掲載が終了。残念です。)
人口尾びれは石川県のどじま水族館のカマイルカ、ラナンにも装着され、成功しています。
美ら海水族館とブリヂストンが協同で作り上げた技術は、確実に次につながったのです。
これが科学の力。
技術屋冥利に尽きますね。
フジと美ら海水族館のエピソードは映画化され、大きく話題になりました。

「ヒトと生き物 ひとつながりのいのち 旭山動物園からのメッセージ/坂東元 」

北海道旭川市、旭山動物園の園長、坂東元さん。
動物の生き生きとした姿をみてもらおうと「空飛ぶペンギン」「アザラシプール」「ペンギンの散歩」などの「行動展示」を展開し、これが大好評に。
いまや国内外から人が押し寄せる動物園として有名になりました。
みんなに喜んでもらえることにとても感謝している坂東さん。
その一方で、坂東さんの中にいろんな思いが沸き上がってきます。
「命に対する価値観」とは。(インタビュー記事
「命を感じる感性を育む場所でありたい。」(インタビュー記事
坂東さんの思考はまだまだ続いているようです。
旭山動物園のエピソードは映画やドラマになってます。
まだ観てない方、旭山動物園についてまだよく知らない方はこちらを一度観てみるのもおすすめです。

「竜之介先生、走る!/片野ゆか」

熊本地震の際に自ら経営する動物専門学校をペット同伴避難所として開放し、メディアにも大きく取り上げられました。本書ではその顛末を綴っています。
竜之介動物病院は365日年中無休。夜間も診療しています。
その上、動物の専門学校、トリミングサロン、無線機を取り扱う会社まで経営し、実業家として精力的に活動しています。
獣医師としての社会活動も実に精力的。
2017年、インドネシアのバリ島の狂犬病撲滅キャンペーンに参画
2019年11月には、ノラ猫1500匹のTNRを実施
いやいや、この方のバイタリティには頭が下がります。
竜之介先生の活動だけでなく、その強烈な個性を支える原動力は何か。
いつか垣間見える時があるのかもしれません。

「プロフェッショナル 仕事の流儀 勝俣悦子 海獣医師 かあちゃん、命と向き合う/勝俣悦子」

鴨川シーワールド、勝俣悦子さん。
平成15年、日本初のイルカの人工授精に成功し、海獣専門の獣医師として世界的にも有名な方です。
勝俣さんは鴨川シーワールドの入社が一度決まったものの、自分がイルカを診れるのか不安になり、1年間入社を保留していたというエピソードがあったとか。
未体験ゾーンに飛び込む。
迷い、悩むのはみんな一緒なんですよね。
悩んで決断し、再びドアをたたいた勝俣さん。
ドアの向こう側を進み続けた勝俣さんの今の姿、ぜひご覧いただきたいと思います。

「命のものさし/今西乃子」

日本児童文学者協会新人賞を受賞している児童文学作家、今西乃子(いまにしのりこ)さんの作。
愛媛県立とべ動物園の園長、渡辺清一さんの経験を取材して書いたノンフィクションです。
渡辺さんは公務員獣医師。
保健所、食肉衛生検査所、動物愛護センター、動物園獣医師の勤務経験で感じた命の尊厳。
野犬狩りで殺処分される犬、食用でと殺される家畜、みんなから愛される動物園の動物たち。
みんな同じ命。
これだけの命にプロの獣医師として向き合う。
動物園では人気者の動物が死ぬと一般に公表していますが、渡辺さんは園長時代、子供たちに命の重さを考えてほしいと、人気のあった動物以外の動物が死んだことも積極的に公表して話題になっています。
渡辺さんの見てきたもの、感じたこと。
獣医を目指す方々にぜひ読んでいただきたいと思います。
今西乃子さんのHPはこちら
渡辺清一さんのインタビュー記事はこちらです。

「獣医師の森への訪問者たち/竹田津実」

竹田津実さん。
北海道で大動物診療をしながら野生動物の生態を追うその姿に、私は「これだ!」と思いました。
私に本気で獣医を目指すきっかけをくれた方です。
学生時代、無我夢中でフィールドワークをしていた時の記憶は、未だに私の根っ子になっています。
本書は2018年発刊のエッセイ。
これまでにも多くの著作がありますので、そちらも手に取られてはいかがでしょうか。
竹田津さんが企画に携わった映画「キタキツネ物語」は、その映像の美しさとゴダイゴの挿入歌で、当時大きな話題となりましたね。
声のキャストや挿入歌を一新した公開35周年記念デジタル再編集版が、2013年に出ています。

「動物病院24時 獣医師ニックの長い長い1日/ニック・トラウト」

アメリカの大きな動物病院での格闘の日々。
日本も大きな動物病院がたくさんできてきました。
同じように激務をこなしている方も多いでしょうね。
医師の分野同様、労働環境がブラックだと言われることが多いですが、そこに自分の存在価値を見つけている方もいることは確かです。
まさに激務と戦っているが、ふと辺りを見回してみたい気持ちが湧いてきた。
せっかく獣医になったんだから、己の腕一本でのし上がっていったろうやないか、と野心をたぎらせている。
この際、せまい日本を捨てて、海外で一旗揚げようか。
そんなみなさん、一読してみてください。

「獣医さん走る/吉川泰弘」

吉川さんはこの道の代表格の方。
獣医疫学って、なかなか一般の方々には認知されていませんよね。
若い獣医さん、こういう分野で世界を股にかけて活躍するのも獣医師の醍醐味だと思いますぞ。
メディアに取り上げられたら一躍脚光を浴びられるかも、です。(笑)

「往診は馬にのって/井上こみち」

淡路島で大動物診療をしている獣医師、山崎さん。
なんと馬で往診に出かけています。
鞄一つで往診する獣医師。私もあこがれていた姿です。
しかし馬で往診するとは、考えもしませんでした。(苦笑)
本作は2011年、児童文芸ノンフィクション賞(福田清人賞)を受賞しています。
山崎さんは、島に住み着いた山下さんと共に「あわじシェアホースクラブ」を設立し、淡路島で馬とのふれあい活動も行っています。
すごいバイタリティですね。興味のある方、ぜひネットで調べてみてください。

「災害にあったペットを救え 獣医師チームVMAT/高橋うらら」

熊本地震で出動したVMAT。
こうした活動は、これからどんどん獣医師に求められてくるはず。
災害時という特殊環境で発生する様々な難問を、獣医師としてひとつずつ解決に導いていく。
そのためのノウハウを平時に着々と研究し、積み上げて準備しておく。
獣医さんがやらないといけない仕事は、まだまだありますね。

「野生の猛禽を診る 獣医師・齋藤慶輔の365日/齋藤慶輔」

国の機関、環境省釧路湿原野生生物保護センターに勤務し、そこに猛禽類医学研究所を設立。
野生動物相手に仕事をする獣医さん。
かっこいい!
素敵です。
もっと彼のような人が増えてくれればいいなあ。
そうですね。
私がまだ知らないだけで、日本のどこかで野生動物と向き合ってる優秀な獣医さんが沢山いるんでしょうね。いやあ、楽しみだなあ。
スポーツや学問、それこそ囲碁の世界まで、とても若い世代が次々とせまい日本から飛び出して世界で活躍しています。そんな令和の時代、アクティブに活動するニッポンの獣医さんがどんどん現れることでしょう。
お若いみなさん、獣医さんの生き方、お金だけで決めちゃあいけませんよ!
野生動物相手に一仕事、どうです?
公務員獣医師のみなさん。
とりあえず飯は食えているんだから、うつむいていないで、本業の傍らフィールドワークに取り組んでみるとか、いっそ地方自治体にフィールドワーク獣医師の職場を作っちゃったりなんかしてみては?
キラキラした学生さんがわんさか押しかけて、それこそえらいことになるかもです。
え、リタイアしたお前こそなんかやれ?
本人はフィールドワークしてるつもりですが、傍から見ると、空眺めたり浜で釣りしてるだけのただのおっさんです。(大笑)

「バスター先生と小さな仲間たちーイギリス獣医師の動物日記」

小児マヒというハンデを持ちながらペット先進国イギリスで獣医師として精力的に活動した自叙伝です。イギリスでは発売と同時にベストセラー。
大戦中という激動の時代に彼が行ってきた活動は、日本で今、ペット愛好家に対峙している開業獣医師さん達にもきっと響くものがあるんじゃないか、と、勝手に思っています。
電子書籍に押されて肩身が狭くなっている昨今ですが、たとえ絶版になっても、中古本流通で入手できるのが紙媒体のいいところ。(笑)
中古本ならあるようです。
興味のある方、ぜひ探してみてください。

「住んでみたザンビア 獣医師のアフリカ不思議体験記/佐藤良彦」

長野県で開業している佐藤良彦さん。
大学出てからタンザニア中央獣医研究所勤務を経た後、長野県職員として農林分野に勤務する中、JAICA専門家としてザンビア大獣医学部に勤務していました。
本業だけでなく、執筆活動もエネルギッシュです。
動物病院のホームページで紹介されています。
本書はザンビアでの体験記です。

「いただきまーす!」(無償配布)
本作品は2020/4/19から2022/3/6までの間に「小説家になろう」にて連載され、通算4,883人、13,530PVと大変多くの方々からご愛顧いただきました。
この場をお借りして御礼申し上げます。
この度、「小説家になろう」を卒業させていただき、読みやすい縦書きに再編集し、電子書籍としました。
食肉衛生検査所や保健所って、ぶっちゃけどんな感じなんだろ…。
そんなあなたに、少しでも何かを感じてもらえたら。
そして今、現在公衆衛生獣医師として勤務している方の、何かのきっかけ作りになれたらいいな。
そんな思いを込めて、お届けします。(全6巻)
いただきまーす! 第1巻
いただきまーす! 第2巻
いただきまーす! 第3巻
いただきまーす! 第4巻
いただきまーす! 第5巻
いただきまーす! 第6巻

「衛生獣医、木崎勇介(食肉衛生検査所編)」(無償配布)
本作品は2019/5/8から2019/8/3までの間に「小説家になろう」にて連載され、通算3,147人、6,388PVと大変多くの方々からご愛顧いただきました。
この場をお借りして御礼申し上げます。
この度、「小説家になろう」を卒業させていただき、読みやすい縦書きに再編集し、電子書籍としました。
平成の時代に全国の自治体で起こっていた団塊世代の大量退職。
その時、食肉衛生検査所で何が起きていたか。
平成の時代の食肉衛生検査所のリアルな姿を、食肉衛生検査所の獣医師として長く勤めていた私がお届けします。
「衛生獣医、木崎勇介(食肉衛生検査所編)」

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